2013 06月04日 |
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5月26日(日)に開催した研究会の各報告と質疑応答の要旨は以下の通りです。 なお、本年度の第2回研究会は秋に関西にて開催予定です。 多くの皆さまのご参加をお待ちしております!! 【2013年度第1回研究会】 日時:2013年5月26日(日)13:00-18:00 会場:東洋大学白山キャンパス (1) 宮下良子氏(大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員/東洋大学アジア文化研究所客員研究員) 「接続するローカリティ/トランスナショナリティ―在日コリアン寺院の事例から―」 宮下報告では、在日コリアン社会における仏教について取り上げて、先行研究において焦点が当てられてきた民俗宗教系の寺院とそれに関わる民間宗教者たちだけではなく、既成仏教の諸組織や僧侶を含めた総体を「在日コリアン寺院」と名づけ、そのヒエラルキー構造とネットワーク状況を詳細な調査データをもとにして論じられた。 在日コリアン寺院の宗教者は在日コリアン二世とニューカマーに大別することができ、その組織構造および活動内容の差異が言及された。なかでも、ニューカマーの宗教者は日韓を往復するトランスナショナルな傾向をもっており、在日コリアンの宗教がローカルな民俗宗教だけでなく、グローバルな世界状況と接続していることが指摘された。 在日コリアンの拡散状況・多様化状況のなかで、従来の「境界」(南北関係、オールドカマー/ニューカマーなど)に基づき活動してきた在日コリアン寺院が活動内容や活動拠点、ネットワークを再編させる動きが生じていると言及された。宮下報告は、在日コリアン社会を静態的なものではなく、トランスナショナルな移動を伴う宗教者の存在を媒介することによって動態的なものとして捉え、「一定の地域、地縁範域において形成される人々の社会生活の総体が地域社会である」とする従来のコミュニティに対する視座への再考を促す議論として非常に説得力をもつものであった。 (2) 石川真作氏(京都文教大学人間学研究所客員研究員)) 「ドイツ在住トルコ系移民の社会的統合に向けて―ドイツ社会とトルコ系移民の関係変化―」 石川報告では、ドイツが1950年代から60年代に実施した外国人労働者雇用政策を端緒にトルコからの移住者が増加してきたことを指摘。当初、トルコ移民は「出稼ぎ労働者」であると考えられていたが、1970年代になると定住化が進んだ。1980年代から1990年代にかけては移民の存在は周辺化されていたが、1990年の外国人法改正、1999年の国籍法改定などに伴い、ドイツナショナリズムの要件である血統主義の実質的に見直された。2004年には移民法が制定され、移民の統合についての議論が焦点化したことが報告された。 今日のドイツには移民の背景をもつ人々が約1570万人おり、なかでもトルコ出身者は約253万人にも及ぶ。そうしたなかドイツにおけるムスリム移民たちの社会統合が大きな課題になっている。現実問題としてドイツでは、これまでに移民が「社会経済的セグリゲーション」および「文化的セグリゲーション」を経験してきたため、統合されざる移民によって全体社会と交わることのない独自の社会が形成されることを意味する「並行社会」の問題が顕在化してきた。 報告では「並行社会」を築いていたムスリム移民が、いかにして地域社会のなかに包摂されてきたのかが、調査地であるデュースブルク(ルール工業地帯の中核都市/トルコ系移民は人口比13%)の事例から論じられた。ドイツには「裏庭モスク」と通称される、集合住宅の一室などを利用した簡易なモスクが多い。それらはムスリム以外の人々にとって閉鎖的な異空間であり、イスラーム過激派によるテロリズムの温床にもなりかねないというイメージから典型的な文化コンフリクトとなってきた。こうした状況を打破するために、デュースブルクでは、EU、州政府、市といった公的セクターと協働体制のもと、地域の教育・交流センターを併設する「モスク複合施設プロジェクト」や良好な生活環境・学習環境の維持を目的とした「イスラーム寄宿舎」が設立されたことが報告された。 ドイツの政治的な言説空間にあってはステレオタイプ的なイスラーム像が語られて、とりわけ保守派の政治家たちに問題視されるという状況がいまだに続く一方で、デュースブルクのように具体的な都市においては、一般市民レベルにおいては、イスラームはすでに生活空間の一部をなしており、地域住民としてイスラームやムスリム移民が確固たる位置を占めている実情が指摘された。 ◯質疑応答 質疑応答においては、それぞれの事例についてのより詳細な情報を求める質問のほか、ドイツにおけるイスラーム団体の活動が「並行社会」から「統合の結節点」になったように在日コリアン寺院もそうした機能を果たしているのか、移民の母国側(宮下報告では韓国、石川報告ではトルコ)の働きかけでなく、移民たちの側が宗教を基盤にしたネットワークを構築している側面もあるのではないか、といった意見が挙がった。いずれの報告も現代社会における移民と宗教をめぐる諸問題を、長いタイムスパンで「地域社会」に立脚して検討していくうえで示唆に富む内容であり、今後、他地域や他の移民集団の事例との比較等も重要な研究課題になると考えられる。 PR |
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